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はくしゅ
「あけましておめでとうてめえらああああ今年もよろしく頼むぜええええええぇぇえ」
すっかり顔が赤らんでいる新八が、おちょこを上にかかげて叫んだ。
「おう、新八」
「しんぱっつぁんも左之さんもおめでとうなー!」
それに続いて、左之助と平助が声を上げる。
つい先ほどに新年を迎え、夕方から大広間で行われていた宴はいまがたけなわである。空になった酒瓶が床のあちこちに転がり、そこかしこで何かが倒れる音、こわれる音が聞こえた。ひと際盛り上がっているその中心は、二番隊組長の永倉新八であり、腹踊りをする彼を囲むようにして、原田左之助と藤堂平助を筆頭とする隊士達が騒いでいる。よく鍛えられた腹の筋肉を、無駄に器用に動かしていた。
「一くんも、そんなところにいないで混ざろうぜー!」
ひとりで静かに、少しだけ飲んでいる斎藤に気づき、平助が無理やり引き込もうとする。
「そうだぞ、斎藤、お前もこっちにこい!」
「お、おいちょっと待て…」
腹に筆で顔を描いた新八から斎藤が逃れようとするが、酔っ払いの勢いに勝てるわけもなく、あれよあれよと斎藤も騒ぎの中心に組み込まれていった。必死で抵抗する斎藤と、彼の顔に筆で落書きをしようとする新八一同との争いが展開される。
「ははは、賑やかでいいものだなあ。なあトシ、総司」
その騒ぎから少し離れた縁側で、酒を飲んでいた近藤が快活に笑う。
「そうですね。近藤さんがそういうなら。近藤さんにあんなことさせようとしたら、斬って捨てるつもりでしたけど」
「おい総司、元旦からそんな物騒なこといってんな」
「うるさいなあ。なら、その時は土方さんが近藤さんの代りになって下さいよ」
沖田がにこやかな笑みを浮かべて答えた。その瞳は鋭く、土方を天敵と見なす、残酷無慈悲なものが感じ取られる。現にその手も、刀の柄にかかっていた。新年早々、険悪な空気を醸し出している鬼の副長と一番組組長である。ふたりの間で見えない火花が散っているのを、まあまあ、今日は無礼講ですよ、と山南が穏やかな、しかし有無を言わせない調子で諌めた。
「そうだぞ、今日は一年のはじめの日なんだ。もっとなかよくしなくてはな。ちいさいころみたいに、今年はもっとふたりで稽古でもしたらどうだ」
「近藤さんがどうしてもそう言うなら、いいですけど」
何処までも、土方への敵対心を隠さない沖田である。
後ろで、新八が「左之の裏切り者がー!」と大声をあげる。平助がそれに「そうだそうだ」と同調した。どうやら、花街で左之助ばかりもてることに対して、不満が爆発したらしい。酒瓶が割れる音と、障子が破ける音と、隊士の怒号が一緒になって広間に響き渡る。
「おいてめえら!騒ぐのもほどほどにしろとはじめに言っただろうが!」
土方が振り返ってどなるが、酔っ払いたちはげらげら笑うばかりだった。怒ってばかりでは身体に悪いぞ副長、と逆に言い返す始末である。
「…まったく。それにしても、今日は冷えるな」
土方が溜息をつき、そして呟いた。空高く満月が昇っており、闇に浮かび上がるそれは、凍えそうに白い。粉雪がふわりふわりと落ちてきて、庭の木にしんしんと積もっていく。
「…そうですね。ごくろうさまです、副長」
騒ぎからやっと解放されたらしい斎藤が、土方のかたわらに座って答えた。
「こんな寒いのに初詣なんて、千鶴ちゃんも律儀だなあ」
沖田がふと、二刻ほど前に、初詣に行くと言って、山崎を連れてでかけた少女のことを言った。
「それに、自分の立場をもっと考えるべきじゃないかなあー」
「いいじゃないか。一年の計は元旦にあり、とも言うからな」
近藤が笑ったその時、戸が開く音が聞こえて、山崎と話題にのぼっていたその人があらわれた。
「おお雪村君!」
ただいま戻りました、と寒さで頬を赤くした千鶴は、皆さん、まだ盛り上がってらしたんですね、と続けて顔をほころばせる。そして大事そうに抱えていた包みを見遣って、お餅を少し頂いてきたので、いま焼きますね、と笑った。
「おー千鶴!ありがとうな!」「流石だ千鶴ちゃん!」と手を伸ばして寄ってくる隊士を前に、千鶴は、その前に!と言って、包みを足もとに置いた。そして、
「皆さん、あけましておめでとうございます…!」
丁寧に一礼して、言った。
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